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連載

2018.9.11

突然のキスに戸惑いを隠せない……そして罪悪感が襲ってくる vol.4

前回までのあらすじ

晴人が不動産投資をしていること、そして祥子が干物ゲーマーであることをお互いに秘密にしておく協定を結んだ2人。その後、祥子は協定に加えて自分が晴人の上司であることを利用し、休日に家事全般を晴人に押し付ける日々が始まった。そんな日々に少しずつ慣れていることに疑問を感じているある日、晴人は祥子とキスをしてしまい……。

 

「おはようございます……」

ぼんやりとした頭でふらふらと企画課のドアを開けた晴人は、消え入りそうな声で挨拶をして自分の席に座ろうとした。そして、課長席にすでに人影があることは横目で確認したが、真正面から見ることができない。

すると、他の社員の「おはようございまーす」という声に混じって、

「おはよう」

と、澄んだ落ち着いた声が課長席から聞こえてきた。

(うわぁ……いる……当たり前だけど……)

晴人は、そこにいる祥子とできるだけ目を合わせないようにしながら、

「お、おはようござい、ます……」

と、しどろもどろになりながら挨拶を返した。

 

昨日、祥子の部屋で深いキスを交わし、雰囲気的にはそのまま祥子を押し倒してさらに先に踏み込むこともできた。しかし、女性との経験がほぼない晴人はそこまで手を進めることができず、さらに脳裏にはすぐに修吾の顔が浮かんできたのだ。

そこで怒涛のように罪悪感がさいなまれた晴人は、唇が離れた瞬間、

「あ……あの、僕、買い出し行ってきます!」

と言って、財布だけを片手に逃げるように部屋を出てしまったのである。

そして、全く頭が回らない晴人は夕食のメニューもつまみのメニューもさっぱり思い浮かばず、出来合いの惣菜だけを買って祥子の部屋に戻った。

「戻りました……、あの、今日はお惣菜買ってきたんで……」

晴人は、また祥子に「手抜きだ」とどやされるか、それともさっきのキスで何か変わった様子を見せるかと、回らない頭で考える。

しかし、そこにいた祥子はいつものようにパソコンデスクに座り、シューティングゲームに興じていた。そして祥子は晴人と目を合わせず、

「あー、そこ置いといて。今日は帰っていいから」

と言い放ち、晴人を帰したのだ。

 

その後、祥子の唇の感触が晴人の唇から離れることはなかった。キスした瞬間から早鐘のように鳴る鼓動は晴人の意思では抑えることができず、昨夜から一睡もしていない。

(ぼ、僕は……何てことを……!)

晴人は自分のデスクで頭を抱えながらも、昨日の様子をぐるぐると頭の中に巡らせていた。あのとき、少しでも祥子にキスしたいという気持ちが芽生えたことは確かである。そしてそれが思わぬ形で実現してしまったこと、さらには修吾の恋人である祥子とキスしてしまったことに、晴人は戸惑いと罪悪感を隠せなかった。

しかし、結果的に祥子に抱き寄せられて祥子の方から唇を合わせてきたことも事実だ。

(何だったんだろう……寝ぼけてたから、修吾と間違えたのかな……)

と晴人は考えるも、そうだとしたらいつも祥子は修吾とあんなキスをしているのかと想像し、余計に頭を抱えてしまうのだった。

 

晴人は、とりあえず心身ともに上がった熱を冷まそうと、いつものように屋上に上がった。涼しい風が、火照った晴人の顔を優しくなでる。しばらく晴人が柵にもたれかかって風に当たっていると、

「またここにいた」

と、後ろから修吾の声がした。

晴人は、昨日の祥子とのキスで修吾に対して罪悪感を覚えていたため、呼びかけられた瞬間にビクッ、と体がこわばる。

「う、うん……」

晴人は、修吾と目を合わせずに小さくそう答えた。

修吾は、晴人の横に来て柵に手をかけ、晴人と同じように風に顔を向ける。

晴人は、修吾に対するもやもやした気持ちをかき消したい一心で、いっそ修吾に昨日の祥子とのことを打ち明けてしまおうかとすら思った。

しかし、修吾が一途に祥子のことを想っているのを考えると、やはり口が裂けても言うべきではない、と思い直す。そんなことを頭の中で巡らせて、晴人はいささか混乱をきたしていた。

そんな中、晴人の横にいた修吾が、少し重いペースで言葉を発する。

「……あのさ晴人」

晴人は、その修吾の声に若干身構えてしまった。

「な、なに……?」

そして修吾は、重い口を開いてこう続ける。

「最近……祥子の様子がおかしいとかない?」

その言葉を聞いた晴人は、いよいよ昨日のことを思い出さざるを得なかった。

「えっ……そ、そんなことはない、と思うけど……」

実際に、そんなことがないわけがない。昨日、祥子が晴人を抱き寄せてキスしたことは、どう考えても様子がおかしい事案である。

もしかして、祥子とのことが修吾にバレてしまったのだろうか。晴人はそう思いながら、全力で修吾に頭を下げる準備をしていた。すると修吾は、

「最近さ……祥子が俺にあんまり会ってくれなくなったんだ」

と切り出す。

「えっ……」

と声を返すと同時に、そういえば自分は毎週休日のたびに祥子と会っていることに気づいた。同時に、昨日のキス事件のせいで、修吾とのことを考えるように祥子に諭せなかったことも思い出す。

(僕は何やってるんだ……)

と晴人が自己嫌悪に陥っていると、修吾はさらに言葉を続けた。

「休日にも『予定がある』とか言ってなかなか会えてないし……仕事終わりにも、適当に流されて2人の時間が作れてなくてさ……」

「そ、そうなんだ……」

晴人は、修吾に返す言葉をすっかりなくしていた。

自分は毎週のように祥子の部屋に行き、祥子と長い時間を過ごすようになっていた。一方で祥子は、修吾の誘いを「予定がある」と言って断っている。

(その予定って……もしかして僕……?)

鈍感な晴人でもそこまでの思考にたどり着いてしまったのだが、それとこれはとは話が別だと晴人は頭の中でその思考を打ち消そうとした。

(そんな……修吾と会うのを蹴ってまで僕を呼びつけるとか……そんなわけない。きっと課長は、たまたま予定とやらの他に時間ができて、僕をこき使っているだけだと思うし……)

晴人の頭の中で、そんな考えがぐるぐる回っているところに、修吾の言葉が飛んでくる。

「晴人は同じ課だから、祥子の様子に何か気づいてるかと思ったんだけど……」

修吾がそう言うと、晴人は力なく

「ごめん……役に立てなくて」

とうつむくしかなかった。

 

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